大判例

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秋田地方裁判所 昭和34年(ワ)81号 判決

原告 伊藤繁

右訴訟代理人弁護士 西岡光子

被告 株式会社男鹿観光タクシー

右代表者代表取締役 武石一郎

被告 三浦義光

右両名訴訟代理人弁護士 米沢多助

被告 西舘文雄

主文

被告らは原告に対し各自金三九万二五〇円及びこれに対する昭和三三年一二月七日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

被告会社が一般乗用旅客運送事業を営み、被告三浦義光を自動車運転手として雇傭していたこと、及び同被告が昭和三三年一二月六日午前一時四〇分頃被告会社のため同会社所有の小型乗用車「秋あ〇八〇二」号を運転し、旅客運送に従事中、男鹿市船川港栄町通り附近で乗客である被告西舘文雄に求められるままに、同被告が自動車運転の資格を有しないばかりでなく酩酊していることを承知の上で右自動車を操縦させたことは当事者に争いがなく、その際被告西舘が運転を誤り、男鹿市船川字栄町六番地の原告方の道路に面した店舗に右自動車を突入させ、家屋や商品、商品ケース等を破壊したことは原告と被告会社及び被告三浦義光との間において争いがなく、被告西舘文雄がその成立について明らかに争わないので真正に成立したものとみなされる甲第一号証の二ないし五、七及び九により同被告との間においても右の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。そうすると、被告西舘文雄が無免許でありしかも酩酊していることを知りながら同被告に運転させた被告三浦義光の過失と、そのような状態で運転した被告西舘文雄自身の過失との競合による共同不法行為により本件事故が発生したことは明らかである。

そこで右事故により原告が蒙つた財産上の損害について調べてみる。

証人辻芳一の証言≪省略≫を綜合すれば当時店舗内にあつたタバコ金三千円相当を含み別紙損害明細書(1)記載のとおりケーキ生菓子等合計一九万一、五〇〇円相当が商品としての価値を失い、又(2)タバコケースを含めケース類八個、ビン一四本、秤一台を破壊されたが、当時右ケース等を他から買求めるには少くとも同明細書記載のとおり合計一七万二、五〇〇円相当を要したものと認められ、更に(3)原告が事故当日である昭和三三年一二月六日から同月一四日までの九日間は営業をすることができず、同月末日までは営業成績が五割以上減少したこと、及び当時原告方店舗のあげうる利益は少くとも一日一、〇〇〇円以上であつたことが認められる。以上の認定に反する証人笹淵祐治、同武石広正及び同鎌田綱吉の各証言は何れも前掲証拠と比べて容易に採用することができないし乙第一号証の記載も前掲甲第五号証の一、二と対比して特に認定の妨げとなるものではなく他に右認定を覆すに足りる証拠はない。本認定の事実によると原告が本件事故のため蒙つた損害は商品及び商品ケース等合計三六万四、〇〇〇円に営業上の利益が合計一万七、五〇〇円を下らないものと考えられるから総計三八万一、五〇〇円であることが明らかである。

次に原告の慰藉料の請求について判断する。

本件事故は前記のとおり深夜道路に面した原告方の店舗内に被告西舘文雄の運転する自動車が突込んだというものであつて、その結果原告の蒙つた財産上の損害の一部は既に回復され、残部は前記のとおりである。ところで不法行為により損害を蒙つた場合、それが単に金銭に評価しうる純経済的な損害である限り、その損害が賠償されれば被害者として一般に感受すると思われる不快感はこれによつて癒され、特段の事情がなければ、慰藉料請求の原因とはならないのであるが、不法行為により生じた損害が人の住居に関するような場合、この損害を単に純経済的な金銭評価の面のみでとらえることはできない。即ち住居は人間のあらゆる生活関係の本拠となるべきものであるし、その平穏は、生命身体の安全と密接な関係を有している。人は誰しも自己の住居を他より侵害されることなく、その中において家族と平穏な生活を営む利益を有しているばかりでなく、これは憲法上の権利にまで高められている(憲法第三五条)。住居の平穏を要請する思想はきわめて古い歴史を有するもので、何人にとつても住居はその城廓であるとすらいわれてきたものである。又、刑法においても住居の平穏を法益としてその侵害に対して刑罰を科している。従つて、住居の平穏は、生命身体の安全に準ずると最も重要な法益として評価すべきであつて、単なる財産的利益と同一平面において考えることはできない。このように考えると、住居の平穏が害された場合には、それに伴う財産的損害の有無に拘らず、住居権者において通常精神的苦痛を受けるものと考えられるし、住居権者は、これに基く損害賠償請求権を有するものと解すべきである。しかしてここに住居の平穏が害されるというのは、単に住居としての建物の一部が毀損されたというだけでは不充分であつて、その侵害の程度態様を考えてみなくてはならないのであるが、これを本件についてみれば、被告会社及び被告三浦義光との間においては成立について争いがなく、被告西舘との間においては同被告が明らかに争わないところから真正に成立したものとみなされる甲第一号証の二、三に証人北島弥惣治、同伊藤とし子の各証言及び原告本人訊問の結果を綜合すれば、本件店舗は住宅を兼ね、当時原告及び義母(七〇才)、妻、子供四人の家族が居住していたことが認められるが、本件は自動車の運転を誤り住居に飛込むという異常な事故であるばかりでなく、それが深夜で原告及び家族らの睡眠中であつたことを考えると、住居の平穏が害されたということは多くの説明を要しない当然のことである。そこで慰藉料の額について考える。前掲各証拠に弁論の全趣旨を綜合すると、本件事故当夜原告夫婦と子供二人が店舗の二階に、原告の義母と子供二人が店舗隣りの部屋においてそれぞれ就寝していたところ、突然雷でも落ちたかのような大きな音がして店舗の表戸、ケース等が押潰され、二階を支えている柱二本を押倒して自動車が突込んできたこと、そのため二階は三〇糎以上も下り、店舗内はガラスの破片や生菓子等の商品が飛び散つて足の踏み場もない状態と化したこと、原告は家族一同とともに右事故のため異常な驚愕を受けてその夜は一睡も出来なかつたこと、原告の義母においても驚愕の余りその後二週間程寝込んだ程であること及び被告会社が事故後折れた柱等の修理をしたが、大黒柱すらつぎたして修理した程不完全であつて、現在も風が吹けばぐらぐらゆれるような状態であることが認められ、この認定を左右すにたりる証拠はない。

以上のような本件事故の態様、程度に事故後の事情を考えると、原告が本件事故によつて蒙つた精神的苦痛を慰藉するには金二〇万円をもつて相当と考える。

そして前記の通り本件事故は被告三浦、同西舘の共同不法行為によるものであり、被告三浦は被告会社の事業の執行について原告に対して損害を加えたのであるから、被告らはそれぞれ原告に対し、前記財産上の損害額三八万一、五〇〇円及び右慰藉料二〇万円合計五八万一、五〇〇円並びにこれに対する遅延損害金の支払義務のあることが明らかである。

よつて原告の被告らそれぞれに対する右損害額の内金三九万二五〇円及びこれに対する本件事故発生の翌日であることの明らかな昭和三十三年十二月七日から右金支払ずみまで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条第一項、仮執行の宣言については同法第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺均 裁判官 浜秀和 高木実)

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